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秀則さんとのつながりの中で、煖エ先生と宏昌さんも関わりを深めていきましたが、宏昌さんにとって煖エ先生はどんな存在でしたか?
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ヒロ |
いわゆる「お医者さん」と「患者の家族」という関わり合い方ではなかったですね。なにせ、先生は初対面でいきなり、5歳のオレに「今日から俺はお前のマブダチだ!」って言ってきたから。「マブダチって何?」って聞いたら「仲の良い友達だ」って言う。素直に、「じゃあ友達ってことでいいんだ」と思って、友達にするように接してました。
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髙橋 |
それでいいんだよ、俺とヒロは「チームメイト」なんだから。俺は、関わってきた家族には、「手術は俺がやる。治療はみんなでやろう」と言ってきた。だって、「ヒデを育てる」ことは、松浦家の家族みんなで取り組むべきことだろ。ハンディキャップを持つ子ども本人も、親もきょうだ
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いも医療者も、みんな「仲間」というチームの一員。だから俺はいつも、ヒロに、「一緒に盛り上がっていこう!」という気持ちで接していた。人として大事なこともいっぱい伝えたよな。「人のために生きろ」とかな。
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ヒロ |
そうそう。オレが一番強く印象に残っているのは、「男は硬派であれ」って言葉。「いいかヒロ、男は硬派じゃなきゃだめだ。お母さん以外の女の子と話すな、彼女はつくるな」って、会うたびに言い聞かされた。おかげで、オレはかなり硬派に育ったと思うよ(笑)
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髙橋 |
実は、ヒデの家族、なかでもヒロに働きかけることは、俺の重要な「作戦」だったんだ。
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ヒデ |
どういうこと?
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髙橋 |
ヒデが成長していくためには、ヒデ自身の努力だけじゃなく、周りの「空気」がすごく大事なんだ。周りがヒデの可能性をあきらめてたら、ヒデの能力を伸ばしてやることはできないだろ? その時に怖いのは、世の中の「思い込み」や「決めつけ」なんだよ。経験を伴わない情報を基に、「それはだめだ」とか、「こうすべきだ」って余計な口出しをしてくるやつが世の中にはいっぱいいる。どれも気にしなくていいことなんだけど、人っていろいろ言われると落ち込んでしまったりするよな。だから俺は、ヒデの一番近くにいる「チームメイト」のヒロに、「気持ちで行こうぜ! 周りの声なんか気にするな!」って声を掛けて、励ましていた。外野の声に惑わされず、人としてあるべき姿で生きていこうって思える「ムード」づくりをしていたのさ。
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ヒロ |
オレは、ヒデを通じて出会った人たちの中に違和感なく入っていけたし、そこにいるのが自分にとって当たり前のことだった。でも、そうしていられたのは、先生や両親が「チームメイト」っていうスタンスでオレに関わってくれていたからかもしれないなって、今、先生の話を聞いていて思ったよ。
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髙橋 |
特別なことはしていないよ。ヒデを育てることは松浦家や周囲のみんなで取り組むことだから、それが本来のかたちなんだ。ハンディキャップを持つ子がいる家庭で、きょうだいがひねくれてしまったという話なんかを時々聞くんだけど、それは、きょうだいを仲間として巻き込んでないから。さっきヒロが言ったけど、きょうだいは処置室には入れない。待合室などで待つしかない。ヒロはそういう時、どんなことを感じていたか覚えてるか?
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ヒロ |
「なんでオレだけ入れないんだろう、またここで待つのかよ!」って思っていたかな。もどかしかった記憶がある。
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髙橋 |
そう。自分だけ別の空間にいると、さみしかったりいらだったりする。さらに退
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院後も親や周囲が患児にばかり構っていると、きょうだいの疎外感はますます深まって、「なんであいつばっかり」って、心がねじ曲がっていく。家族みんなで一緒に、治療にも生活にも取り組めば、そんなことは起きないんだ。「タンブラカップ」っていう野球大会をやったよな。誰にも言わなかったけど、あれはその考えの中でスタートしたものの一つだったんだよ。ハンディキャップを持つ子どもの家族のためのプロジェクト「たんぽぽブラザーズ カップ in Japan」が正式名称で、略して「タンブラカップ」な。「いけまぜ夏フェス」は患児たちを中心に、みんなが持ちつ持たれつで助け合い支え合うという地域の仲間のつながりを再建するイベントだけど、「タンブラカップ」は患児だけでなく家族やきょうだいのためのイベント。ヒロは中学から野球を始めてたから、初回から参加してくれたな。
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ヒロ |
中学の友達も誘って参加した。車椅子の子もそうじゃない子も一緒になって試合して、楽しかったね。
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髙橋 |
俺が診ていた患児やそのきょうだいが、駒大岩見沢高校や北海道栄高校などの球児だったから、うまいやつらが参加していて、すごかったな。甲子園に出ただけあって、軟式の球なのにめちゃくちゃ速い。
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ヒデ |
だからこそ面白かった!
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髙橋 |
誰も試合では手加減しない。俺たちはすべてにおいて、「本物」を追求していくけれど、野球の試合も本物だったな。そうやって楽しみながら、俺は似たような空気を持ってる家族をつなげていったんだ。標(二巻、三巻、九巻、十一巻に登場)の家族や亮(九巻に登場)の家族とかな。
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ヒロ |
ああ、なんかわかる。どこの家族も、同じような「におい」がするね。
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髙橋 |
そう、みんな、常にチャレンジャーで、考えるより先に行動を起こしていく。そういう、自分の「経験」を大切にして突き進んでいくパワーを持つ家族が孤立しないようにしたかった。「仲間」がいれば支え合えるし、「仲間」が増えれば周りから、ああだこうだとうるさく言われることも減ってくる。そう思って引き合わせていたんだよ。
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ヒデ |
そうだったんだ。今も亮を含め何人かで遊んだりしてるよ。
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ヒロ |
オレも、みんなで集まる時には一緒に行って、過ごしてる。いたって普通の家族付き合いだね。
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髙橋 |
それがいいのさ。自分たちは気付いてないかもしれないけれど、そういう家族の姿こそが、社会に気付きを与えていく力になるんだ。家族同士集まって、みんなでわいわいやってる時にはハンディキャップがあるとかないとか関係ないもんだろ。人間の「本質」が、みんなの姿から見えてくるんだよ。
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